脳のネットワークと動作原理の解明


わたしたちの脳は、約千億もの神経細胞からなる複雑で巨大なネットワークです。そこでは、神経細胞が非線形な相互作用を通じて結合し、スパイク発火と呼ばれる電気的な信号を送り合うことで、高度な情報処理と、極めて柔軟で効率的な学習を実現しています。

近年、様々な実験技術が急速に進展したことで、神経細胞がスパイク発火を送り合う実際の振る舞いや、経験や学習を通じて、脳内の情報伝達が変化していく様子を、大規模かつ詳細に捉えることが可能になり始めました。

ところが、最近の膨大な知見にも関わらず、脳の情報処理の動作原理や、効率的な学習を実現するメカニズムは、まだ未解明に残されています。これらの原理が解明できれば、現在の深層学習などを遥かに凌駕する、本当の意味での脳型人工知能を実現する突破口になることは間違いありません。

そこで私たちは、その突破口を開くことを目指して、実際の脳の特性や知見、実験データを、情報とダイナミクスに関する数理的な観点から捉え、そのネットワーク構造や動作原理を解明する研究を行っています。

 

例えば、最新の実験データと数理モデルを組み合わせることで、脳が自発的に神経活動を維持するメカニズムを解明し、その自発活動の神経細胞間の情報伝達における意義を数理的に明らかにすることに成功しています。また、画像などの視覚入力に対する反応と神経ネットワークの関係から、大脳皮質と呼ばれる脳の部位の詳細な結合特性を説明することにも成功して、さらにそれを機械学習に応用することにも成功しています。

このように情報処理システムとしての生物の脳の解明と、ニューラルネットワークなどの機械学習とを結びつけることを目指して、実験との共同研究も含む、様々な研究を進めています。

 

 

 
寺前 順之介

京都大学 情報学研究科 先端数理科学専攻 非線形物理学講座