非線形物理学:自然の自己組織化ダイナミクスの数理モデリング


細胞が集まって一個の生物になり、その個体が集まり社会・経済・生態系などの複雑なシステムを生み出す。あるいはニューロンという単純な細胞が集まることで認知や思考が可能になり私達の豊かで高度な行動が生み出される。

このように自然界には、単純な構成要素(素子)が多数集まり集団として動作することで、単一素子の性質からは想像もできなかった複雑で豊かな構造が自然に生まれてくる自己組織化と呼ばれる現象が多く見られます。同じ分子が集まっただけで、滑らかな水の流れや、空に浮かぶ雲、硬い氷など多様な特徴を持つ物質を作り出す現象はその代表例で、物理学、特に統計物理学の対象として研究が進められてきました。

集団が生み出す自己組織化現象の中には、生命現象のように極めて複雑で動的な現象が生み出されることもあります。多くの研究により、そこでは素子や相互作用が持つ「非線形性」が重要な役割を果たしていることが分かってきました。非線形性に着目し、自然の豊かで多様な自己組織化現象を解明する分野が非線形科学、あるいは非線形物理学と呼ばれる研究分野であり、物理学、情報科学、生物学、脳科学、社会学、経済学など極めて広い分野への展開が活発に行われています。

私達は特に、非線形素子間の相互作用におけるネットワークの効果やノイズなどの確率性に着目した研究を進めています。例えばノイズによって非線形振動子が互いにリズムを揃える「ノイズ同期現象」と呼ばれる現象を数理的に解明することに成功し、「リズム」と「ノイズ」という一見すると相反する2つの現象が密接な関連を解明することに成功しました。また非線形振動子が必ず同期する(リズムを揃える)ネットワークの構造を数理的に明らかにすることにも成功し、ネットワークと自己組織化の関連の解明にも成功しています。

これら様々な自己組織化現象の数理研究を通じて、生命や脳が生み出す高度な機能や特性を数理的に解明することを目指した様々な研究を進めています。

寺前 順之介

京都大学 情報学研究科 先端数理科学専攻 非線形物理学講座