第80回「非線形・統計力学とその周辺」セミナーのご案内
日時:平成18年12月15日(金)15:30-17:00
場所:京都大学工学部2号館101講義室(吉田キャンパス)
講演者:高木 隆司 (神戸芸術工科大学 芸術工学研究科)
講演題目:
1.変分原理によってストークス方程式を導く
2.中央アジアの先史石刻絵画の定量的解析
講演要旨:
枕として題目の内の1.を話し、主として2.を話す。 ストークス方程式は、ナヴィエ/ストークス方程式で、慣性の効果を 表す非線形項を無視したものであり、遅い流れ(速度、スケール、粘性 が小さい流れ)に対して応用されている。この方程式の解は、同じ境界 条件と非圧縮の条件を満たすが方程式の解になっていない速度分布に比 べて、粘性散逸が小さいことが数学的に証明されている。ただし、その 逆、すなわち粘性散逸を最小にするという条件からストークス方程式を 導けるかどうかは、いままで不明であった。最近筆者は、圧力分布によ って流体に与えられる仕事と粘性散逸の差を考え、この差が停留値にな るような流速分布は、ストークス方程式を満たすことを示した。講演で は、その概要を話す。(Ryuji Takaki: to appear in Fluid Dyn. Res.) 中央アジアは、カスピ海の東、中国の西、ロシアの南、イランやアフ ガニスタンの北にある5つの国を総称したものである。そのうちのウズ ベキスタンは、古代からシルクロードの中継点として栄え、サマルカン ドは日本にも知られた観光地になっている。中央アジアには、石器時代 から人々が岩壁にきざんだ絵画が多数残っている。しかし、このことは 世界的には知られていない。その絵画としてのスタイルは、地域によっ て異なり、スタイルの違いを議論する基盤となる方式を確立することが 望まれている。筆者は、2003年に、この地方の環境調査を目的とし た科研費(代表者は、京大経済研、塚谷教授)の分担者としてサマルカ ンドを訪問した際に、現地の考古学者と知り合う機会があり、石刻絵画 の解析をすることを思い立った。その方法を以下に述べる。 絵画の多くがシルエットなので、それをスキャナーで2値データとし て取り込み、そのスケルトン(骨組みをあらわす線画)を求めた。この 線画のトポロジー的特徴から、絵画のスタイルを特定することを試みた。 最初の試みとして、野生のヤギであるアイベックスを選び、その頭、角、 前足、胴、後足、尾を肉眼で特定し、これらの各部分が持っている分岐、 ループ、トゲなどの特徴を、56文字からなるコードによって指定する ことにした。絵画同士の距離が、それぞれのコードの異なる部位の数に よって定義されることになり、それによってスタイルの違いが客観的に 議論できることになった。この方法を応用した結果、有効であることが 示された。将来の夢は、この方法(あるいはそれを改良したもの)によ って、石器時代の人類の状況(文化の類縁関係、人類の移動の道筋など) を推定することである。(Ryuji Takaki, etal: to appear in FORMA)