統計物理学的計算手法とその応用:モンテカルロ・テンソルネットワーク


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2次元量子多体系を(2+1)次元に拡張した量子モンテカルロ法における世界線状態。このような状態を数千万サンプル平均をとることで絶対零度における量子多体現象の研究を行っています。

沢山の要素からなるシステムは単純な相互関係のもとでも非常に多彩な様相を見せます。しかも、単純ながらその振る舞いを予測することは難問であることが知られています。

例えば、物質の性質を予測する問題の計算量は要素数に対して指数関数的なコストがかかる問題になっています。そのような問題に対して、開発されてきた手法がモンテカルロ法で汎用的で有用な計算手法の一つになっています。

しかし、量子多体系が示す量子物性の研究に使われる量子モンテカルロ法には負の確率が出現する深刻な負符号問題が生ずる場合があり、その克服のために多くの研究が進められてきました.

その中でも、特に、近年、量子情報分野の研究の進展により、量子相関(エンタングルメント)に基づく(行列を拡張した)テンソルをベースにしたテンソルネットワークという手法が発展してきました.

我々はこれら量子モンテカルロ法やテンソルネットワークなどの統計物理学的手法の展開を幅広く行い、量子物性だけでなく、量子情報処理系や時間発展をする非平衡多体系の基礎的研究や、機械学習・データ科学における応用研究を進めています。

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1次元量子多体系の量子状態を表現するテンソルネットワーク。これはMERAと呼ばれるタイプで、これ以外にも様々なものが提案され、研究が進められています。

参考文献
[1] 原田 健自:量子モンテカルロ法の最近の発展, 岩波書店 雑誌「応用数理」VOL.15 NO.3 SEP.2005, page 28-44.
[2] 原田 健自:現代物理学の新手法テンソルネットワークと量子多体系, 丸善出版 雑誌「パリティ」Vol.32 No.12 2017年12月号 page 4-10.
[3] 原田 健自: 沢山たくさん からできている世界, 「数理工学の世界」第3章, 日本評論社, 2019年10月, ISBN 978-4-535-78883-1.

助教 原田 健自
  • 計算と物理
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京都大学 情報学研究科 先端数理科学専攻 非線形物理学講座